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その親知らず、抜くべき?そのままでいい?

親知らずとは、20歳前後に萌出(ほうしゅつ)してくる第3大臼歯のことです。その昔、人生50年といわれた頃に親と死別する時期に生えてくる歯であることが名前の由来だと言われています。

英語ではwisdom tooth と言われ、物事の分別がつく頃に生える歯であることに由来しています。そのため、智歯と言われることもあります。


1.親知らずが生えない人もいる?

親知らずは生える人と生えない人がいます。親知らずが生えない人はどのぐらいいるのでしょうか?

親知らずに限らず、生えるはずの歯が生えないことを「先天性欠如」といいます。

智歯(親知らず)の先天性欠如の確率は、2歯欠如が約40%と一番多く、ついで1歯欠如が約25%、4歯欠如が23%と続き、3歯欠如が約10%ともっとも低い確率であったそうです。欠如の場所は、上の歯の方が下の歯よりも多い傾向で、左右の差は見られませんでした。
<出展:山田博之、花村肇;ヒトにおける第3大臼歯先天欠如と他歯欠如の関係、歯基医誌35巻第2号、197-204>

おおよそ4人に1人は親知らずが生えていることになりそうです。他人事ではないですね。

2.親知らずが原因のトラブル

食生活の変化などにより、原始時代の人類と比較して現代人のアゴは徐々に小さくなっています。そのため最も奥に生える親知らずは、横に向かって生えたり、埋まってしまったりなど、トラブルの原因となることが多い歯です。しかも親知らずは、生えたことに気がつくのが難しいため、痛みを感じる状態になるまで悪化させてしまいます。

親知らずが原因で起こるトラブル、病名は智歯周囲炎と言います。様々な症状・原因がありますが、大きく3つに分けられます。

歯茎が腫れる

 1)萌出してきていることによる腫れ

 2)歯茎が化膿していることによる腫れ

 3)親知らずと手前の歯の歯周病が進行したことによる腫れ

歯に穴が空いてしみる

 1)親知らずに汚れがたまり虫歯ができてしまった

 2)親知らずがあることにより手前の歯に横から虫歯ができ進行した

 3)親知らずがあることにより手前の歯の根が露出してしみる

歯間にものがはさまる

 1)親知らずが横に生えてきた

 2)親知らずや手前の歯に虫歯ができてしまった

 3)親知らずと手前の歯の歯周病が進み隙間ができた

 

3.年代別の症状と処置

20歳前後

親知らずが萌出し始める年代です。萌出により歯茎の腫れや痛みがでることが多くあります。強い痛みを伴うことは比較的少ないため、放置してしまう方が多いのですが、この時期に抜歯してしまうのが一番のおすすめです。若いほうが創傷治癒スピードが早いこと、また親知らずの歯根が成長してしまう前に抜いてしまったほうが、隣接する歯への影響も少なく、リスクが抑えられるためです。

25−30歳

親知らずの影響で痛みを訴え、来院される方が多い年代です。この年代は、以下のような理由で口内環境が悪化している方が多くいます。

・親知らずが萌出しきれない状態が何年も続いている
・加齢による身体変化の始まり
・歯科検診の受診機会の低下
・生活環境の変化

このころ、親知らずの歯根はしっかりと成長しているため、抜歯によるリスクも高くなります。しかし、痛みを伴っていることや、放置してもリスクは増えていく一方なので、なるべく早く抜歯することをおすすめします。

30歳以降

加齢変化が進み、免疫力が低下してくる年代です。

親知らずの手前の歯の歯周病が発生・悪化することにより、親知らずが腫れてくることがあります。

また、歯周病による歯茎の後退により、埋まっていた親知らずが露出してしまうことで隙間ができ、化膿したり、虫歯ができて穴が空いたりすることもしばしばあります。

こうなってしまったら、一度腫れや痛みを薬で抑え、なるべく早く抜歯する必要があります。術後の痛みや創傷治癒は個人差がありますが、だいたい1週間は痛み・腫れが続きます(まれに痛みが出ない方もいますが、その場合は幸運だと思ってください)。

年齢を重ねるほど、親知らずの状態は悪くなります。

手前の歯にも影響が出てきてしまうことが多く、最悪の場合、親知らずのみならず、手前の歯まで一緒に抜歯せざるを得ないこともあります。

また、持病や常用薬の影響、および歯根や歯冠が埋まっている状態が長期化して癒着した状態など、で抜歯が困難なケースも発生してきます。

4.抜歯のリスク

親知らずのトラブルは、初めて自覚するまでの間、全く症状を感じないことも多くあります。

ある日、奥歯の違和感や腫れ・痛みを感じて歯科を受診してみたら、親知らずを抜歯しましょうと勧められる。さて、本当に抜いてしまっていいのでしょうか?

抜歯をするにはリスクを伴います。しっかりとリスクを知ったうえで判断しましょう。

(1)術後合併症リスク

どの歯であれ、抜歯すれば痛みがでます。
特に親知らずの下の歯を抜くと痛みが続くことが多いです。下顎の骨は硬い皮質骨という骨で覆われているためです。骨が硬いと治るまでの時間がかかり、炎症が長引きます。傷が治るにつれて痛みは引いていきますが、それまでは痛み止めでコントロールするしかありません。
痛みが2週間以上続く場合は術後合併症の可能性がありますので、注意が必要です。

親知らずは頬の近くにあるため、抜歯後、炎症が頬に広がることにより腫れます。
しかし、腫れるのは悪いことではありません。治癒の過程であり、必ず腫れは引きます。腫れをおさえるために冷やしてしまうと、かえって治りが遅くなってしまうことがあります。
ただし、術後感染の場合は膿がたまってしまい、腫れが引かないこともあります。
術後感染しないためには、口腔内を清潔に保ち、必ず処方された抗生物質を指示通りに飲むようにしましょう。

(2)知覚麻痺リスク

下の顎の骨の中には太い神経が通っています。親知らずが横になって埋まっている場合、根の先が神経と接してしまっていることがしばしばあります。

抜歯することにより、稀に神経の近くに傷ができてしまい、それが原因で知覚麻痺が起こることがあります。

多くの場合、傷ついた神経は自然に回復するため、知覚麻痺は一時的な症状となります。ごく稀に一部の知覚鈍麻が残ることがあります。

(3)鼻の空洞と口腔内がつながってしまう

上顎の歯の上に上顎洞という副鼻腔があります。上の顎の親知らずが横になって埋まっている場合、根の先が上顎洞に突き出していることがしばしばあります。これを抜歯することで、突き出た部分の粘膜が破け息が漏れてしまったり、鼻血が出てしまったりすることがあります。
これは一時的なもので、出血した血がかたまり、かさぶたができれば問題はありません。

強く鼻をかんだり、唾を強く吐いたりすると、陰圧でかさぶたが突き抜けてしまうことがあります。
一週間前後でしっかりとかさぶたが出来ますので、それまでは気をつけましょう。

上記のようなリスク発生確率が高いと判断した場合は、抜歯を回避するか総合病院や大学病院の口腔外科に紹介して設備の整ったところでの処置を勧めます。

当院では大学病院の口腔外科出身の先生に月に一回抜歯をお願いしております。口腔外科専門の経験のある先生にしっかり精査してもらい、クリニックでも対応できる低リスクの抜歯を行なっております。

もちろん、リスクが高い状態の方には総合病院か大学病院を紹介いたします。

抜歯するかしないかはとても難しい判断です。患者さん自身が、自分の状態とリスクを理解した上で選択することが重要です。抜くことのリスクと抜かないことのリスクをよく考えて、ご判断いただきたいと思います。

かかりつけの歯科医としっかり相談し、もし少しでも不安がある場合はセカンドオピニオンを求めたり、抜歯の判断を先送りにするのもいいと思います(先延ばしにする場合は定期検診で状態をチェックをするようにしましょう)。

自分自身が抜きたいと納得した時が抜く時です。

5.抜かないメリット

さて、ここまで、残しておいてもいいとこなしの親知らず、残しておいたほうがいいケースはあるのでしょうか?

親知らずが虫歯にも歯周病にもなっていない状態で、噛み合わせも問題がない場合は残しておいた方が良いでしょう。もし、隣接している歯を失うことになれば残しておいた親知らずが役に立ちます。

親知らずが横になって生えている場合は残しておくメリットはありません。しかし、前述のように神経にかなり近接している場合や深く埋まっている場合など、抜歯リスクが高い場合は、残しておかざるを得ません。

余談ですが、歯の中にある歯髄細胞は通常の細胞よりも増殖能力が高く、未分化細胞が含まれており、再生医療で活用される細胞のひとつです。将来的に自分の親知らずを使って、切断を余儀なくされた足を再生させるということも出来るかもしれません。

歯髄細胞バンクなどのサービスも提供されていますが、もしもの時のために、親知らずを残しておこうという選択肢もあるかもしれませんね。
※現状では、横に生えてしまった親知らずを抜かないメリットはあまりないと思います。

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