今回は最近耳にすることが多くなってきた「予防歯科」について書きます。
予防歯科とは?(予防医学と合わせて理解しよう)
予防歯科は介入する対象と時期によって、1次予防、2次予防、3次予防と3つに分類されます。この3つの分類について、より理解を深めるために身体に対する予防である、予防医学と合わせて説明します。
◆1次予防
予防医学では、健康教育、生活習慣の改善、予防接種など病気にかからないようにする処置や指導を指します。
予防歯科では、歯磨き指導、糖分摂取コントロール、フッ素塗布などにあたります。
◆2次予防
予防医学では早期発見、早期治療を促し、病気が重症化しないようにする処置や指導です。
予防歯科では、定期検診やPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)という歯科医師や歯科衛生士により専用機器を用いて、ホームケアでは落としきれない汚れを除去する処置などにあたります。
◆3次予防
予防医学では、治療過程で保健指導やリハビリを行うことにより、社会復帰を促したり、再発防止をしたりする取り組みのことです。
予防歯科では、治療後のメインテナンス、口腔機能回復の処置や指導などとなります。
一般的に予防歯科といえば、1次予防、2次予防の段階、つまり虫歯や歯周病になる前の時期だけをイメージする方が多いと思います。
しかし、そうではありません。予防歯科は既に虫歯や歯周病になってしまった後、歯科治療後にも重要なのです。
虫歯治療は人工物による治療であるため、治療に使用した材料はいずれ劣化します。治療した虫歯が痛みの症状がないまま、気が付かずに悪化してしまうこともあります。
いちど歯周炎が進行してしまえば、歯茎が元の状態に戻ることはありません。歯周病は強い痛みを伴うことが少ないため、ボディーブローのように、徐々にしかし着実に歯にダメージを与え続け、歯がグラつくなどの症状に気がついた頃には既に手遅れということもあります。
歯科治療後であっても予防歯科は重要です。歯科治療においては「治療が終わったら完治で、その後は放置していい」という考えはこの機会にあらためましょう。
8020運動
厚生労働省が推進する「健康日本21」という運動をご存知でしょうか。「健康日本21」は2000年から2013年までの期間を1次として、2013年から2022年までの期間を2次として、現在も推進されている国民の健康を推進する運動です。
2000年に始まった1次の基本方針は、より一層1次予防を重視する指針です。詳しくは健康日本21のサイトをご覧ください。
歯科分野には、誰でも一度は耳にしたことがある「8020運動」があります。
◆8020運動とは?
8020運動は歯の喪失予防の目標です。1992年の歯科疾患実態調査の結果である:80歳で20歯以上自分の歯を有する人の割合:11.5%を、20%以上に引き上げるという具体的な目標値が設定されています。80歳、20本の歯というのが「8020運動」の名前の由来です。
あまり知られてはいませんが、8020運動には歯の喪失予防以外にも目標もあります。幼児期・学童期のう蝕(うしょく)予防や、成人期(40歳、50歳)の歯周病の予防についての目標です。
8020運動の目標
1.歯の喪失予防
2.乳幼児から学童期における虫歯の予防、予防の周知など
3.成人期の歯周病の予防
◆8020運動の進捗状況
8020運動は効果を発揮しており、下記の通り、総じて虫歯や歯周病は減少傾向にあり、歯の喪失も減少しているようです。
歯の喪失予防
80歳20歯についての2009年の国民健康・栄養調査の結果、達成率は26.8%で、目標値の20%を達成しています。
また第2次中間報告である2016年の国民健康・栄養調査の結果、達成率は51.2%で、こちらも目標値の50%を達成しています。
乳幼児から学童期における虫歯の予防、予防の周知など
幼児期や学童期の虫歯のない人の割合の増加についても、目標値を達成しています。法令による積極的な予防処置と指導を行っている結果だといえます。
成人期の歯周病の予防
成人期の歯周病については、進行した歯周病がある人の割合が20~30%となり、目標値には達していませんが、減少傾向にあります。
気になる成人の歯周病の推移
健康日本21の第1次では40代、50代で進行した歯周炎を持っている人の割合は20~30%と減少傾向にあるとありました。しかし第2次では、進行した歯周炎を有する人の割合が40代:44.7%、60代:62%と、第1次の時よりも悪化しています。
8020運動の結果と合わせて考えると、80歳で2人に1人は20本の歯が残っている状態ではあるが、その残っている歯は歯周炎になっている、それも進行した歯周炎になっているという状況だということです。
歯を失う原因の理由の最上位は、虫歯ではなく歯周炎です。これは健康日本21の結果からも明らかです。さらに働き盛りの40代から歯周炎になってしまう方が増えているようです。
歯科検診の受診状況
「1年間に1度は歯科健診を受診している人、および歯石除去歯面清掃を受診している人の増加」という目標について、2009年の国民健康・栄養調査の結果では34.1%となり、目標値の30%を達成しています。つまり2009年時点で、約3人に1人が年に一度は歯科受診をしているということになります。
また2013年からの健康日本21:第2次では、同項目の目標値は65%となっていますが、結果は52.9%と改善はししつつも目標には届いていない状況です。
ひと昔前までは、歯が痛くなったら歯医者に行くというのが常識の世の中だったのに、今や2人に1人は1年に1回は歯科検診を受診している状況となっており、予防歯科への関心が高まっていることがわかります。
効果的に予防歯科を実践しましょう
歯がはえはじめたら(幼少期)、歯科医院にてフッ素塗布や歯ブラシ指導を受けることで虫歯を予防しましょう(1次予防)。
成人してからは、法令で定める歯科検診はなくなりますので、自発的に歯科検診やPMTCを受けましょう。虫歯や歯周病の予防や早期発見・早期治療に効果的です。
また歯科治療経験があっても、定期的に検診を受けることで、重症化を予防することができます(2次・3次予防)。
予防歯科は歯の一生を通して、ずっと必要なものです。
定期歯科検診のおすすめの頻度は、歯周病が進行する前の20代~30代までは1年に1回以上で、歯科治療経験が多い方や、40代以降の方は半年に1回以上です。
しっかりと歯科検診を受けることで、虫歯・歯周病の重症化を防ぎましょう。